道207号 野村哲也


季刊『道』 207号より


<連載>
地球を歩く
~知られざる絶景を求めて~

野村哲也 写真家

写真家の野村哲也氏の連載。

秘境と絶景を求めて旅を続ける野村氏、訪れた国は 150を超えます。

旅のプロセスだけでなく、そこでの人間模様や湧き出る思いは、
地球の素晴らしさを届けてくれる写真とともに、私たちの心を揺さぶります。

「父、母、これから毎年1回、
 僕が2人を世界中何処へでも招待するよ。
 だから一緒に外国を旅しよう! 
 その代わり決まりが一つ。
 行き先は、すべて母が決めてね」

西暦2000年、25歳の僕は、
世界で最も愛する父母と
親子旅をすることに決めた。

その記念すべき第1回目は、
母が最も見たいと切望したアラスカのオーロラ。

2人の頭上に、毎夜毎夜あきれるほど
カラフルな極北の光が降り注いだ。

2回目はバリ島。
生活の中に神を見る。
神と共存する人々と触れ合い、
聖なる地・アグン山を見上げた。

3回目はペルー。
マチュピチュやナスカ、パルパの地上絵を見た。
ペルーの激ウマな食事に母は目を細め、
父は絶叫したなぁ。

その後、パタゴニア、イースター島、
グアテマラ、チリ、南アフリカ、ラオス、
フィンランド、トルコ、クロアチアと
海外を駆け抜け、13回目からは国内へ。

知床、高千穂、鎌倉と続けた。

そして今日から16回目の親子旅が始まる。
場所は沖縄の石垣島だ。

この世に生まれた時から、
溢れんばかりの愛情を注ぎ、僕の夢を
たくさん叶えてくれた父と母。

だからもし2人に夢があれば、
僕が全部叶えてあげたい。

「お母さんの夢なの、
 石垣島に見に行くのが」

コロナ禍で、自粛ムードがまだ残る中、
僕は聞いた。

「来年もまだ夢は逃げないけれど、
 本当に石垣島へ行く?」

「てっちゃん、私たちももうすぐ80歳、
 だから来年のことなんて考えないようにしたの。
 来年は無い。だから私は行きたいな」

腹をくくった瞬間だった。
何があっても、母の夢を今年石垣島で叶える。
目的の森は、今年も優雅に
待っていてくれた・・・・

 *  *

野村さん最愛のお母さまが
石垣島に見に行きたかったものとは?

誌面ではタイトルページに
その写真があでやかに載っています。

【207号】 2021冬
http://www.dou-shuppan.com/dou207-lp/


野村哲也(のむら てつや)
1974年生まれ。岐阜県出身。高校時代から山岳地帯や野生動物を撮り始め、〝地球の息吹き〟をテーマに、アラスカ、アンデス、南極などの辺境地に被写体を求める。渡航先は150カ国で著書は14作(累計30万部)。最新作は『ポリネシア大陸』(福音館書店)。