道193号 対談 岩井喜代仁・宇城憲治


季刊『道』 193号より


<巻頭対談>
立ちはだかる行政と矛盾の中で取り組む人間再生
― 我が道を貫く ―

岩井喜代仁 茨城ダルク代表 vs 宇城憲治 UK実践塾代表

薬物依存回復施設ダルクに出合って25年、岩井喜代仁氏は自らも回復の道を歩みながら、多くの依存者を救ってきた。

国の矛盾する体制と、世間の無理解、無関心という壁に阻まれる中、様々な課題に一つひとつ忍耐と情熱をもって取り組んできた岩井氏。

氏が語る薬物問題は、これまでのマスコミの報道からは得ることのできない真実を明らかにしている。

世界は違っても、国を憂い、子供たちの未来のために戦い行動する同志・宇城憲治氏と、

人として、男として、どう生きるかを、語り合っていただいた。

【岩井】
今日は、久しぶりに呼んでもらって
先生の顔を見に来ました。

【宇城】
とんでもないです。
私のほうこそ岩井さんの話を聞くのを
楽しみにしていました。
よろしくお願いいたします。

【岩井】
今までの経緯の中で日本の薬物問題の
変わり方を話します。まず一つは危険ドラッグについて。

今、新聞を見ていても、「危険ドラッグ」
という言葉は載りますが、「薬物依存症」
という言葉は載らなくなった。

これ、何故なんだろう、
ということなんです。

たとえば、私が「安いのが(薬物)あるよ」
と言われて、茨城から東京池袋まで来て
それを買ったとします。

すると私はすぐ使いたいと思う。

茨城から乗って来た車があるから、
まずは駐車場に行って車の中で一回吸うか、となる。

それで、そのまま車を運転したら
人をたくさんひいて殺してしまった、と。

この、薬物を手に握った時に
「使いたい」という心は何なのかということ。

つまり、そこには「薬物依存症」
という病気があって、
それが事件を起こしているのだ、
という事実があるわけです。

ですからドラッグそのものよりも、
「薬物に依存している病気」ということに
問題があるという認識が必要だということです。

「危険ドラッグ」にしても大麻にしても、
使う時に怖さがないんです。
煙草を吸うのと全く同じ原理ですから。

注射器だと、針を身体に入れようという時に
一呼吸置くものなんですよ。

でも煙草を吸うのと同じ感覚の薬物の場合、
子供たちは全然違和感を持たない。

今、学校の生徒指導要領を見ると、
「危険ドラッグ」については
先生のスキルで教えると書いてある。

先生たちは子供たちにどう
説明するのでしょうか。

先日私の講演で子供たちから
こんな質問がきました。

「おじさん、危険ドラッグと言われているけれど、
覚醒剤は危険ドラッグじゃないんですか?」と。

子供たちは危険ドラッグだけが
危険だと思っている。

学校の先生はそれに対して
何と答えるのよ、という話なんです。

名前一つでこういう誤解を
子供たちに与えている。

これがひとつの問題です。

そしてもうひとつの問題は、
あなた方が病気になった時に飲む薬も全て
危険ドラッグとなり得るのですよ、ということ。

なぜならば普通に薬局で買える薬でも、
使い方一つ間違えるだけでおかしくなるわけだから。

その中でも「危険ドラッグ」と呼ばれる薬物は、
もし使ってしまったら、それをやめさせたり、
治す方法が今のところない。
それくらい危険なんだということ。

逆に覚醒剤や大麻など、昔から日本で
使われてきた気持ちよくなる違法薬物は、
ある程度治療方法がある。
だから今おじさんは使っていないんだよ、と。

だけど法を逃れるために次々と
新しい成分でつくり出される危険ドラッグは、
身体にどのような影響を及ぼすのかが
分かっていなくて、

危険ドラッグを使うということは、
自分で人体実験をするようなものなんだと。

その薬の抜き方も、治療方法もない。
治らないから「危険ドラッグ」と
言っているんだよ、と。

こういう話をすると、子供たちの感想文は
「やっぱり使ってきた人の話だから、
非常にリアルで、今までとは違ってよく分かる」と。

【宇城】
そうなんですね、よく分かります。
知識で教える人では事の本質と顛末の怖さが
やはりボケてきますよね。

マムシを掴んだらどうなるかの話を
するようなものですね。

体験している人はマムシの見分け方から、
近寄らない方法、時には捕獲する方法まで
話ができる。

それはマムシに噛まれたらいかに危険かが
分かっているからこそ、
体験者は具体的に話ができるということですよね。

【岩井】
先生は淡路島に道場をお持ちですが、
2015年に淡路島の5人殺害事件が起きましたよね。
あの犯人は完全に精神障害者なんですよ。

【宇城】
その事件はよく覚えていますよ。
しかし犯人自身については詳しく出ていませんよね。

【岩井】
出せないでしょう、なぜなら現行の
法律にのっとったら、あの子は無罪になるからです。

なぜこういう重大事件を起こす
可能性がある子が病院に入れられていなかったのか。

それは、15~16年前に厚生労働省が
「退院促進事業」を始めたからなんです・・・・

*    *    *

病院で出される薬も、家庭に常備している薬も
すべて「危険ドラッグ」になり得るということは、
誰もが知っておくべきことでしょう。

両氏の対話は、行政がつくり上げた仕組みの矛盾を
突いていきます。

【193号】 2017夏
http://www.dou-shuppan.com/dou193-lp/


岩井 喜代仁(いわい きよひろ)
1947年京都府宮津に生まれる。薬物依存者のための民間の社会復帰施設・茨城ダルク「今日一日ハウス」代表、女性シェルター代表。元やくざ組長。
2010年 茨城県福祉部長賞受賞
2012年 茨城県知事賞受賞


宇城 憲治(うしろ けんじ)
1949年、宮崎県生まれ。
エレクトロニクス分野の技術者、経営者として活躍する一方で武道修行を積み、文武両道の生き様と、武術の究極「気」による指導で、人々に潜在能力を気づかせる活動を展開中。「気」によって体験する不可能が可能となる体験は、目に見えないものを信じられない人にも気づきを与えるとともに、人間本来の自信と謙虚さを取り戻すきっかけとなっている。
空手塾、道塾、教師塾、野球塾、企業・学校講演などで「気づく・気づかせる」指導を展開中。
㈱UK実践塾 代表取締役
創心館空手道 範士九段
全剣連居合道 教士七段
宇城塾総本部道場 創心館館長