【白鵬】
だいたい身体が柔らかい人は力が弱いんですね。
僕の場合は力がある人よりは弱いのだけど、
力を抜いていると「ブヨブヨ」な筋肉が、
いざ技に出るという時に「くっ」と硬くなるんです。
こういう筋肉というのは、いい筋肉で、
めずらしいらしいです。
そういった意味で私は身体が硬い人が
大好きなんです(笑)。
硬い人というのは最初の出だしは力があるのだけれども、
止めてしまえば、もうこっちのものなんですね。
あとはどこに放り投げるかというだけで(笑)。
一方、身体が柔らかい人は投げても投げても
まだ生きている。
そういう体質というのも
生まれもったものなのでしょうかね。
実は僕は31歳から筋トレをやるようになったんです。
なぜなら、身体が柔らかいと、やらないとすぐに
筋力が落ちてしまうからです。
【宇城】
硬い人はあとはどこかに放り投げるだけ
……いいですね(笑)。
しかし力士さんには200キロを超すような
でかい人もいるわけですからね(笑)。
これは参考になればと思うのですが、今、
左の手の平を開いたり閉じたりしてみてください。
手首を絞められたほうはしんどいでしょう。
一方右手はふつうに開いて閉じてが
自由にできるでしょう。
その自由にできている右手を左手にうつすのです。
そうすると左手も楽にできる。
これを「夫婦手」と言って、
夫が妻を助け、妻が夫を助ける。
片方だけでやらないで両方で全部やる、と。
脳梗塞になって右手が動かなくなって
左手が動く人は、それをひとつにつなぐといいんです。
これを僕は「統一体」と言っているのですが、
一つにすると動くようになるんですね。
たとえば、立ち上がって僕の肩を
上から思い切り抑えてもらえますか。
ふつうはとても立てませんが、
統一体になると簡単に立てます。
【白鵬】
えー!?
【宇城】
それと足を前後にさせてしっかり立ってください。
こちらが力で押すと、踏ん張ることができますね。
ところが内面をずらすと、こうなる。
【白鵬】
はぁ、こう入ってくるんですね。
【宇城】
内面ですから。
突きも同じです。
相手はこちらの内面につられるのです。
【白鵬】
間に反応している?
【宇城】
そうですね。
目に見えない何かに反応している。
横綱はすでに実践でやっておられる。
だけど無意識だから記憶に残っていないのかもしれません。
【白鵬】
いや、なんとなくわかっているんですね。
組んでしまえば呼吸は整えられるのですが、
組む前までがゆっくりなんですね。
僕もこのことでちょっと調べたのですが、
読売ジャイアンツが9連勝を成し遂げた時の監督の
川上哲治さんが現役の頃に、
「ボールが止まって見えた」と言っていますね。
「今の野球選手はなんで打たないんだ。
みなボールをただのボールと思っている。
当たったら痛いだけで終わってしまっている。
果たして斧とかナイフ、包丁とかを
投げられたら人間はどうするんだ。
『絶対に打ちます』になるだろう」と。
【宇城】
ナイフとか包丁を投げられたら「絶対に打つ」。
本当ですよね、真剣さですね(笑)。
【202号】 2019秋
http://www.dou-shuppan.com/dou202-lp/
白鵬 翔(はくほう しょう)
第69代横綱 日本国籍
1985年3月11日、五人兄弟の末っ子としてモンゴルウランバートル市に生まれる。姓はムンフバト、名はダヴァジャガル。父・ジグジドウ・ムンフバト氏はモンゴルでは有名なモンゴル相撲の力士で、年1回のモンゴル相撲大会で6回優勝をした国民的英雄。
2000年10月、15歳で初来日。帰国前夜に急きょ宮城野部屋への入門が決まり、白鵬関の相撲人生が始まった。
2001年春場所で初土俵、2004年初場所で十両昇進、同年夏場所で新入幕を果たした。2006年春場所の活躍で大関昇進を決め、同年夏場所で初優勝。2007年夏場所を3回目の優勝で飾って横綱に昇進。
以後優勝を積み重ねて2014年九州場所で第48代横綱大鵬の持つ優勝記録32回と並び、2015年初場所でついにその記録を塗り替えた。
宇城憲治(うしろ けんじ)
1949年、宮崎県生まれ。
エレクトロニクス分野の技術者、経営者として活躍する一方で武道修行を積み、文武両道の生き様と、武術の究極「気」による指導で、人々に潜在能力を気づかせる活動を展開中。「気」によって体験する不可能が可能となる体験は、目に見えないものを信じられない人にも気づきを与えるとともに、人間本来の自信と謙虚さを取り戻すきっかけとなっている。
空手塾、道塾、教師塾、野球塾、企業・学校講演などで「気づく・気づかせる」指導を展開中。
㈱UK実践塾 代表取締役
創心館空手道 範士九段
全剣連居合道 教士七段
宇城塾総本部道場 創心館館長