「自分が本物になり、次の世代に本物を伝えていく」 五月女貢先生のこと

 五月女貢先生の著書『合気道開祖 植芝盛平の教え 伝承のともしび』には、五月女先生が若き日に本部道場で内弟子として開祖から必死に学んだひとつひとつが丁寧に描かれています。五月女先生が開祖の稽古を受けながら感じたことは、毎年毎年、開祖の合気道が変化していること、そしてそれらはますます精妙になり、開祖ははるか門人たちの頭上に進化していってしまうとうことだったそうです。
 『伝承のともしび』では、開祖との数々の一対一で交わされた会話をもとに、開祖の言葉や思いを問答形式にして、開祖を知らない方々にもわかりやすくかみくだいて紹介されています。
 以下は、五月女先生が、なぜそのような形で開祖の思いを伝えていこうと思われたか、について語ってくださった言葉です。
私の役割というのは大先生から受け継いだものを、私自身が成長すると同時に、いかにひとりの生徒に伝えていくかなんです。合気道スクールズオブ植芝は、130以上の支部道場があり、千人を超える有段者もいます。しかし、私は生徒の数を数えたことはない。私にとって生徒は、ひとつの人格をもった人間、つまり“ひとり”であって“メンバー”じゃないんです。
 師弟というのは一対一。何千人いたって、今“対する”のはひとりしかいないでしょう。ですから目の前にいる人間に対して、私と生徒との関係において、どうやって“道”を伝えていくか。それしかないんですよ。
 単なるプロフェッショナルの先生としてレクチャー(講義)しているのではなく、師匠から受け継いだものを、自分を通して伝えていく。これが道統なんです。その道統の心を失ったら、いくら組織が大きくなってもだめなんです。何千人の弟子を得て、経済的、政治的には成功しているように思うでしょうけど、それは成功じゃないんです。
 今の合気道の世界的な状況は、大先生が何を考え、何を教えていたのかぜんぜんわからなくなっている。
 ただ、ハーモニーだピースだと言っているけれど、自分の中にそういう、相手とのコミュニケーションとか調和とかを確立していく指標がなくなってしまった。
 私の役割は大先生に教えられたものを消化して、いかに自分が本物になり、次の世代の弟子を本物にするか。それしかない。
 国や人種が違っても、私の心とか愛というものは受け取るんですよ。それがほんとうの愛なんです。師匠が「本物をつくる」、弟子が「本物になる」、お前と私が一緒に成長する。そういう真剣勝負なんです。それがあるから皆ついてくるんです。

 『伝承のともしび』では、五月女先生が命をかけて伝えようとするもの――それは開祖の心と教え――がつまっています。ぜひ一度ご一読ください!